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【舘神龍彦の手帳講座】補講2回目(最終回)・手帳を多角的に考える

2019年版の手帳・ダイアリーが店頭に並びはじめ、いよいよ手帳シーズンに突入。手帳シーズンを迎えるにあたり、“手帳王子”こと手帳評論家の舘神龍彦さんに、これまで4回にわたって手帳について解説してもらいましたが、補講2回目となる今回で最終回となります。今回のテーマは、「手帳を多角的に考える」です。

*「第1回・神社系手帳とはなんだったのか」はこちら
*「第2回・手帳を作るということの本質とは」はこちら
*「第3回・手帳術って何だ?」はこちら
*「補講1回・手帳は、目的と使い方をインストールするものである。」はこちら

手帳を多角的に考える

今まで四回にわたって手帳について考えてきた。

今回は、手帳を知るための切り口について考えてみたいと思う。

そしてそれが手帳の全体を捉え知ることだと考える。

念のために言えば、こんなことは普通に手帳を使っている分には知る必要もないし考える必要もない。それよりは手帳の活用方法を学んで実践した方が有益だとも思う。だから純粋な読み物として楽しんで欲しい。

手帳の歴史

手帳の歴史をどこから始めるかについては諸説があるが、その諸説をまず押さえることだろう。日本においては一般的には福沢諭吉が欧州使節団に行った際にパリから持ち帰ったものが最初の手帳と言われている。また、太閤検地の際の野帳もルーツの一つだろうし、あるいは古代中国から伝来し、平安時代から始まっている具注暦もそうだろう。

前二者はおもにメモとか記録という文脈で捉えられるべきだ。具注暦については、主に、日の吉凶の判断などが、最近の手帳と通ずるものがあると考えられる。

具注暦はまた、日記的な側面もあるが、日記と手帳は実は正反対の役割を持つものと捉えるべきだろう。手帳は基本的には未来の予定についての記述であり、日記は取り組む時点において、すでに過去のことだからだ。日記しかなく手帳が存在しなかった時代においては、そこになされた記述は、時間軸に沿った予定というよりは、日付や出来事に関する記録だった。

最近の手帳の利用目的の一つであるライフログはどうだろう。ライフログは記録をすることで未来の判断材料の一つにするという側面がある。また、とくに体重など数値的に表現しうるものだったり、それと天気や体調との相関を見たりする。ただし最近ライフログという名前で手帳のユーザーがやっているものは、実際には日記に近い。絵や文章による叙情的な記録は、日記と言って差し支えない。

また、軍隊手牒や船員手帳、警察手帳など、手帳と名のつくものについても知っておくとよい。これらは名前こそ手帳だが、予定記入欄はない。どちらかと言えば、身分証であり、履歴記録だ。とくに最近の警察手帳は完全なIDカードの役割だけになった。

年玉手帳については、過去の回で触れたのでそちらを参照して欲しい。

暦も手帳を形成する重要な要素だ。これも以前触れたが、そもそも手帳はこの暦に予定記入欄をつけたものだ。だから手帳には暦の性格が受け継がれている。

その暦とは現在ではグレゴリオ暦であり、日本に手帳が登場する以前の時代においては、太陽太陰暦だった。

時間管理ツールとしての面

能率手帳は、日本で初めて時間軸入りの手帳として1949年に誕生。そののち1955年に市販されるに至った。実際日本能率協会の初代理事大野氏は、時間がビジネスの重要なリソースの一つであることを認識しており、それが同社の会員企業に好評だったことから市販にいたったという経緯がある。

すなわち手帳による時間管理は、60年以上前にすでになされていたことがわかる。

この事実はまた、時間がビジネスに於ける有限なリソースであることを示唆すると同時に、時間軸の有無で手帳の性格が変わってくることも意味している。

実際中高生向けの趣味性の高い手帳には、時間軸が入っていない(※)。

手帳というと文房具の愛好という文脈からは、せいぜいここ十年ぐらいのスパンでしか捉えられないような感じもある。実際には上記のことから判断しても、手帳による時間管理はもっと歴史がある。

また、すでに20世紀初頭に、労働者の能率を測る実験とその報告がなされている。

1924年に開催された能率博覧会における講演会で伍堂卓雄という人物による、呉の海軍工廠で実施された労働者の能率を測る実験についてのレポートがそれだ。

それによれば、労働者の科学的管理として、

・原料、労働者、用具、作業順序等の標準化

・標準にともなう作業予定の作成

・予定に従った作業の実施

の3要素の実行がなされたという。

ここにも手帳やそれを使った作業の管理の原型があることがわかる。

もちろん、クリエイティブであったり、イノベーティブであったりするような頭脳労働に、こういう単位時間あたりの生産性を追求する考え方がそのまま適用しうるとは思えない。だが、現代に於ける時間管理の考え方の底流にあるのは、このレポートであり、あるいはそれに影響を与えたテイラーの著書『科学的管理法』だろう。

つまり手帳の周辺・近隣領域には常にビジネスに於ける流れがある。数年前にドラッカーをテーマとした手帳指南書が登場したことでもそれは裏付けられる。

以上は、近代に於ける時間管理の源流にあるような話だが、こういう考え方もとくにビジネスシーンに於ける手帳を考える上では必須ではないかと思う。

※最近人気のスタディプランナーは、時間軸が入っている。これは学生が、勉強の予定を立てるのに、時間を意識していることの反映だと考えられる

スタディプランナー.jpg時間軸が入っているコクヨの「キャンパス スタディプランナー(ルーズリーフ)」(デイリー罫 みえる化タイプとデイリー罫 みえる化タイプ・ガーリー)

手帳のタイプ

手帳の構造やタイプも外せない要素だ。

綴じ手帳か、バインダー式なのか、予定記入欄のタイプはなにか、または、なにとなにか。あるいはそれ以外の「100のリスト」のようなコンテンツはなにがあるのか。

手帳市場のメインストリームたる、ビジネスパーソン向けの手帳は、かつては予定記入欄と便覧だけだったが、この十数年で記入欄が大きく多様化している。

バインダー式も、かつてはルーズリーフとシステム手帳だけだったが、最近だとリヒトラブのツイストリングノートをベースにした手帳も登場している。

それらを踏まえて次の問題もポイントになってくる。

どの手帳を選ぶか

逆算手帳、ジブン手帳、ほぼ日手帳、CITTA手帳、はたまた、「勇気の言葉手帳」というものある。

これらのそれぞれについて、特徴を把握し、ブランドとして自分に似合うかどうかを考え、もちろん機能面・ソフト面もチェックする。

ジブン手帳2019.jpgジブン手帳

そのほか、周辺ツール、スピリチュアル、手帳術など

手帳はまた組み合わせるツールが異常に多い文具でもある。

インデックス類:しおり紐、インデックスシール、ブックダーツ、

ふせん:しおり用、デコり用、タスク管理用、ページ拡張用、フォーマット付加用などなどがある。

そしてなぜかスピリチュアルな文脈で語られる文具でもある。

さらに、手帳術である。前回までで見たように、手帳術と一口で言っても、目的や使うツールなどで千差万別な方法が存在する。

このように、手帳は、ちょっと考え始めると止めどもなく周辺領域の知識が広がっていく道具でもある。手帳の個別の使い方や記入方法、などについては『最新トレンドから導く手帳テクニック100』(枻出版社)を、手帳そのものの歴史や、その現代的な意義については、『手帳と日本人』(NHK新書より近日刊行予定)をご覧ください。どうぞよろしくお願いいたします。

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プロフィール

舘神龍彦(たてがみたつひこ)
アスキーを経てフリーの編集者/ライター。デジタルとアナログの双方の観点から知的生産について考え、著作を発表。主な著書はiPhone手帳術ふせんの技100』『手帳の選び方・使い方 』(いずれもエイムック)、『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)、『システム手帳新入門!』(岩波書店)、『手帳進化論』(PHP研究所)、『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(枻出版社)、『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)、『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)、『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。最新刊の『最新トレンドから導く 手帳テクニック100』(枻出版社)が2018年10月に発売。『手帳と日本人』をNHK新書より近日刊行予定。

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