【連載】月刊ブング・ジャム Vol.35 注目筆記具大集合!(その1)
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は、注目の筆記具について取り上げました。
第1回目は「マイティグリップ」です。
(写真右から他故さん、高畑編集長、きだてさん)
*その2はこちら
*その3はこちら
巻いて楽しい! 自分でグリップを巻く異色のシャープペン
――今回は、気になる最新筆記具について語っていただきます。まずは「マイティグリップ」からです。
【きだて】前にもチラッと言ったけど、去年のシャープペンのベストバイはこれです。
【高畑】おおっ! きだてさんのベストバイ出た。
【他故】これはひとえに滑らないグリップというものが。
【きだて】そう。圧倒的に滑らないこのグリップの良さという。
【高畑】グリップのこだわりは、やっぱりきだてさんだよな。
――先日、「ドクターグリップエース」を取り上げたときも、「グリップきているんじゃないか」という話が出ていましたが。
【きだて】そう、グリップが今後の筆記具の争点になるんじゃないか予想というのがあって。
【高畑】まあ、これに関しては、中身は今流行の特殊シャーペンではなくて、割とシンプルなもので。
【きだて】ごく普通の、ベーシックな。でも、使ってみたら「ああ、別にこれで充分じゃないの」という感じで。
【他故】まあまあまあ(笑)。
【きだて】いや、メーカーさんがこれまで頑張っていろいろシャープペンシルを進化させてきたのは分かるよ。でも今まで俺らは「芯が折れない」とかそういう機能抜きでも使ってきたわけですよ。
【他故】まあ、あんまりね。
【高畑】ああ、僕らの世代はね。
【きだて】俺らの世代は、折らずに書くというやり方が、ある程度知らずにインプットされているんだよ。
【高畑】俺も、「製図用シャープペンで折れるというやつは、使わんでええ」って前からそう言ってるよ(笑)。
【他故】「それは君の体に合ってないんだから、使うな」って(笑)。
【きだて】だから筆記機能としてはこれで十分なんだけどさ。このグリップが…俺、こういうのをキッチリ巻くとかそういう作業、大好きなの。
(一同)あ~。
【きだて】ひとつのアミューズメントとして、巻くのがすごい楽しくて。
【高畑】そうか。
【きだて】まずは、そこが好きだというのは表明しておきたい。
【他故】俺は、これを巻くのがド下手で、全然ダメなんだよ。
【きだて】ああ、そう? 俺みたいな不器用な人間が楽しめているのに。
【他故】本当にね、センスないなって思っちゃう。
【高畑】他故さんは、テープのりが真っ直ぐ引けないとか、そこら辺は苦手なんだね。
【他故】ダメなんだよ。
【きだて】意外なところに弱点があるよね、他故さんって。
【他故】だから、俺はグリップは既製品が付いていた方が全然良いって思っちゃう。
【高畑】俺は巻くの楽しいよ。
【きだて】これはね、テープ一重だけだと細いじゃん。
【他故】ああそうね、どれだけ巻くかという。
【きだて】だから二重・三重と巻いたり、あとはウェットとドライで手触りを変えたりとか。正直なところ、そこまでのカスタム性をどれほどのユーザーが求めてるのかは分かんないんだけどね。でも、俺は自分にマッチするものを探求するのが楽しいので、例えば「ドライ+ドライ」の二重巻きと「ウェット+ウェット」の二重巻きはクッションが違ってくるのか?とか色々と試してみたくなるね。
【他故】はいはい。
【きだて】ていうのが楽しい。
【高畑】まあ、巻くのが単純に面白いは面白いね。
【きだて】さらに、それだけやったことで得るリターンもめっちゃ大きい。
【他故】ほお~。
【高畑】やっぱ滑らないすか?
【きだて】いや、これ以上に安定するグリップって、今までにも無かったよね。
【高畑】おお~。
【きだて】そりゃそうでしょ。このグリップテープってテニスラケット用の素材でしょ。走って汗だくでラケットをブン回しても滑らない、ってものなんだから。
【高畑】ああ、それは確かに。
【きだて】そんなの、じっと座ってシャープペンシル握ってるぐらいで滑るわけないやね。
【高畑】きだてさんはどんな感じに仕上げているの?
【きだて】とりあえず、巻きに関しては、二重ぐらいでいいな。三重だとちょっと太かった。
【他故】この写真だと、三重巻きは大分太い感じになるよね。
【きだて】一重だと、やっぱり貧相なのよ。
【他故】まあ、そうだよね。
【きだて】大分細いし。俺には、二重ぐらいが一番バランス良くて。だから、俺は基本的にドライの二重巻きだね。
【他故】ドライの二重巻きか。
グリップを2重巻!
【高畑】手がウェット気味の人は、ドライがいいということだね。
【きだて】そう。サラッとするという。
【高畑】逆に、手がカサカサしている人は、ウェットの方がいいんだね。
【きだて】ひょっとしたら、冬場なんかはウェットの方がいいかもしれない。冬場は、俺も手汗かかないでカサカサしてるんだ。
【他故】動画でも巻き方が見られるというのがいいな。
【高畑】動画はあった方がいいと思う。図を見てても、最初どうすればいいのかが分かりにくいといえば分かりにくいので。
――一応、スタート地点に星印が付いているんですよね。
【きだて】このスタート時点で、もう最後の巻き終わりまでイメージしつつ最適なテンションを模索して巻くのが楽しいのよ。
【他故】非常にホビー感あふれる感じがまたね。
【高畑】ちょっとした、プラモデル的な楽しみはあるね。
【他故】これだとやっぱ中学生かな? 小学生にしちゃちょっと値段が高いかも。
【高畑】これ、二重巻きにしようとすれば、余計に1枚買わないといけないんだね。
【きだて】そうそう。
【高畑】何ですかね、この滑らなさは。ドライもだけど、このウェットは(笑)。
【きだて】ピタッと。
【高畑】ピタッとくるよね。
【きだて】吸着する感じ。
【高畑】ウェットの手に吸着する感はすごいね。
【きだて】手がカサカサのおじいちゃん、おばあちゃんでも、このウェットだったら絶対大丈夫。
【高畑】あ~確かに。きだてさんが、歴代で触ってきたグリップの中で、滑らない感ではどうなの?
【きだて】滑らない感では、圧倒的にこれだよね。これ以上のグリップは知らない。
【高畑】今のところ知らないと。
【きだて】いやー、そりゃそうでしょ。アスリート仕様だもの。
【高畑】今までいろんな素材のグリップは触ってきているけど、この感じはなかなかないよ。
【きだて】なかったね。
【他故】言っちゃえば、ちょっとしたプロ仕様になるわけだね。
【きだて】明らかに、ペンとしてはオーバースペックなんだよ(笑)。
【他故】このグリップのところだけね。
【高畑】これを持ったまんま、時速200キロぐらいで振っても大丈夫という。
【きだて】大丈夫。
【他故】それじゃあ、TVCMは松岡修造じゃないとダメですよね。
【きだて】錦織にジャンプしながら振ってもらおう。
――二重巻きの場合は、この上から巻いちゃうわけですね。
【きだて】そうそう。
【高畑】でもね、2枚重ねて巻くこともできるよ。
――あ~、重ね巻きもありますね。
【他故】色を違うのにしてみるとかね。
【高畑】巻く場所も、前の方ばかり巻くとか、後ろばっかりとかできるんだよね。だから、自分の巻きたいところに多めに巻くことができるんだよ。
【他故】いずれにしても、2枚目のグリップを買ってほしいんだね。
【きだて】うん、二重巻きにするなら、最初から重ねた状態で巻いた方が見た目がきれいだよね。
【他故】かなりきれいな感じだよね。こうやって下から違う色が出てくると、きれいに見えるよね。
【きだて】それを最初に巻いちゃうと、それができないから。
【他故】ああ、そうか。
――ちょっとホビーチックな。
【他故】ホビーだけど、こうするとかわいらしさも出るんですよね。だから、ゴリゴリの男の子ホビーじゃない。
――女子も使ってるんでしょうね。
【高畑】結構売れている感じなのかな?
――売れているみたいですよ。
【他故】シャープペンシルってすごいなぁ。
――結構TVで取り上げられているじゃないですか。だから、認知度は結構ありますよ。
【高畑】あ~なるほど。
――あと、グリップだけ買って、他のペンに巻く人もいるみたい(笑)。
【高畑】あ~、やりそう。俺も学生だったら、そのやり方をやったかもしれないな。
【他故】昔、オートのシャープペンで、グリップだけ売ってたじゃないですか。あれも、いろんなシャープペンに付けましたよね、確かに。
【きだて】あ~、売ってたね。
――まあ、マイティグリップのこのグリップも他のシャープペンに巻くことはできるので。
【他故】これで、“マイティデルガード”も作れるわけですね(笑)。
【きだて】中高生って、過剰なものが好きじゃん。
【他故】まあね。
【きだて】オーバースペック好きにハマるし、それプラス、自分で工夫していろんなものに巻く遊びもできるでしょ。
【他故】あと、人と違うものが欲しいという子もいるだろうしさ。これは、そんなに高くはないですよね?
【高畑】600円だね。
【きだて】グリップバンド1枚入りで税抜600円、グリップバンド1枚で税抜150円。
――グリップが1枚付いているからその価格なんですね。
【高畑】多分、このグリップ素材が高いんだよ。
【きだて】だよね。
【他故】逆に、この150円は頑張った価格かもしれないな。
【きだて】この素材で、このかたちに切って、というのはないだろうしな。
【高畑】多分、元素材の大きなところからカットしているんだろうけど。まあ、この素材としての優秀さはすごいな。全然滑らない感がすごい。
【他故】これは、汚れたら巻き替えるみたいな使い方ができるのかな?
【きだて】そうだよ。
【他故】これは汚れるでしょ。
【高畑】これだけ吸着するグリップだから、かなり汚れるよ。
【きだて】夏場なんか、かなり汗を吸って汚れると思うよ。
【他故】今年の夏なんかは結構汚れちゃうかもしれないけど、すぐに巻き替えればいいんだ。
【きだて】巻き替えられるから衛生的という考え方もできるじゃない。
【他故】今までのは、グリップそのものを取り替えるという発想はないわけだからね。
――そのうち、抗菌入りとか出てくるのかな。90年代のトレンドに戻った感じで(笑)。
【他故】時代が逆行してきますね(笑)。
――これ、本体のデザインもテニスっぽくしてるんですって。クリップの上がYの字みたいになっているのは、テニスラケットをイメージしてるみたいです。
【きだて】それは、言われんと分からんな。
【高畑】読み取れなかったな~、それは(笑)。
【きだて】見た目の部分でのスポーツっぽさは感じ取れなかったな。
――これ、中学で軟式テニス部に入部した子がまず買うような、ミズノあたりのテニスラケットに似たデザインですよ、多分。
【きだて】もしかしたらこのゴムバンドの部分が、リストバンドっぽいイメージなのかもしれない。
【他故】今テニスやる人って、リストバンドするの?
【きだて】してるよ。テニスやバドミントンやっている人は結構未だに巻いているよ。
【他故】つい、リストバンドがめちゃめちゃファッションアイテムになっていた時代を想い出しちゃったので。
――汗が手に流れてくると、グリップが滑りやすくなりますからね。
【他故】じゃあ、今でもそういう記号みたいなのは生きているんだね。
――でも、まさか「マイティグリップ」がこんなに話題になるとは思いませんでしたよ。
【高畑】いや、高機能なシャープペンって、「クルトガ」から始まって大分見たじゃん。だから、「そこか!」っていう感じはしたな。
【きだて】さっき、文具王がかなり先端から巻いたじゃん。
【高畑】そう、あそこ握ったら痛いなと思って巻いてみた。
【きだて】そういうのもできるよね。俺みたいに、先っぽを持ちたい人には。
【他故】それは分かるよ。
【高畑】先端の三角のところは段差ができちゃうから、そこが嫌だという人は巻き込んじゃえばいい。
【他故】この段差をつぶすために、前の方に偏って巻くことができるからね。
【きだて】だから、その辺のカスタム性が面白い。やっぱ、ペンの持ち方なんて十人十色じゃない。何だかんだで色々とあるからさ。万人に合うものなんてないのよ。
【他故】それはそうだよね。
【きだて】なら、自分に合うようにやっちゃったら面白いんじゃない、とは思っているので。
【高畑】でも、滑らないっていいじゃないですか。縁起もいいし。
――ゼブラの人が言ってましたけど、グリップに特徴のあるシャープペンは来ているみたいですよ。
【きだて】やっぱり注目されてるんだね。
【高畑】中のメカが一段落して、次はもう一回グリップみたいなね。
――ちょっと先祖返りみたいな。
【他故】そのグリップも、ラバー一辺倒じゃなくて、いろんなタイプのグリップが出てきているということですよね。それはすごく面白いですよね。
【きだて】「デルガード」も、これまで色々とグリップを変えてきたてじゃない。メタルをやり、ラバーをやりで。
【他故】そうだね。
【きだて】さらに言えば、このマイティグリップの方式って、いろんなペンにも応用できるじゃない。
【他故】うん。
【きだて】だから、ゼブラがこのシリーズを拡げていくと、結構面白いかもしれないし。まあ、勝手に自分で巻いちゃってもいいけどね。
【他故】ああ、いいね。「マイティブレン」とか作れるよね。
――マイティブレン(笑)。
【高畑】このパーツがさ、普通にどこにでも手に入れば、もうちょっと他のものにも巻けたりするじゃないですか。何か、色々と使えそうな気がしなくもないね。
【きだて】ただねー。ひとつ残念なのは、自分で巻いたのはどれだけ丁寧に巻いても、やっぱり見た目があまり良くない。
【高畑】おっ、う~ん。なるほど。
【他故】まあ、そこまではっていうね。
【高畑】そうなんだよ。カチッと感はないんだよね。いわゆる、商品としての一定感がないから、やっぱり凸凹してしまうし。
【きだて】どうしても「手作業しました」という感じが拭えない。
――ハンドメイド風で、ちょっと紙ねんど工作感はありますね。
【きだて】テープ自体が引っぱると伸びるから、力の入れ具合で、巻いた段差にも微妙に誤差が出るでしょ。その不均等な感じが完成品っぽくないというか。その辺りの問題をクリアする方法ってないかなーとは思ってる。
【高畑】なるほど。
【他故】何か改良してくるかもしれないよね。今僕らが思い付かないようなアイデアがまた出てきて、「巻きやすくなりました」とか「きれいに巻けるようになりました」とかさ。
【高畑】今は、テニスのラケット用に作られた素材を、ここに切って貼っているじゃない。最初から、このグリップ力を持ったグリップが付いていてもいいじゃない。
【他故】そうだよね。
【きだて】表面がこの素材でできたグリップが。
【高畑】最初から巻いてあるタイプのやつがね。
【きだて】そう。そういうのは出るだろうし。
【他故】自分で巻きたい人はこっちだけど、最初から巻いてあるきれいなものが出るというのはありそうな話だね。
【きだて】まぁ、でも結局、グリップが次の戦場になるって話は確実かね。
――年末に、「ドクターグリップエース」を取り上げたときにも、そういう話が出てきたじゃないですか。まあドクターグリップエースは、元々グリップに特徴がある「ドクターグリップ」の一つですが。
【他故】でも、ドクターグリップエースの中身は「モーグルエアー」なので、モーグルエアーにグリップを付けたわけじゃないですか。
――まあ、言っちゃえばそうですよね。
【高畑】中のメカが折れにくいとか、中のメカを選んで買うのが定着したからこそ、中のメカが見えなくてもいいから、今度は滑らないグリップの方に行っている。芯が折れない系のシャープペンは、グリップが透明なのが多かったからさ。そこは、やっぱり滑るんだよね。
【他故】大体そうね。
【高畑】「クルトガ」も「デルガード」も、初期のモデルは透明だから滑るじゃん。ようやくグリップモデルが出てきたということだよ。
【他故】ということで、これからシャープペンはグリップ戦争に行くのかもしれないし。
【高畑】折れないに関しては、各社揃ってきちゃったじゃない。そこで差別化するのが難しくなってきたからというのはある。「アドバンス」でも、特殊なグリップを開発しているじゃない。だから、グリップの時代がちょっと来ているというのはあるね。
――「アドバンス」に関しては、次回たっぷりお話ししてもらいましょう。*次回は「アドバンス アップグレードモデル」です
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。最新刊の『ブング・ジャムの文具放談6』も発売。
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