【連載】月刊ブング・ジャム Vol.24 その1
第1回目の今回は、クツワの「磁ケシ」を取り上げます。
遊びじゃないのよ、この消しゴム
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――今回は、この春注目の文具を色々と集めてみました。まずは「磁ケシ」です。
【きだて】個人的にはかなり好きですよコレ。ギミックも面白いし、普通に消しゴムとしてもBや2Bの鉛筆に合わせたチューンをしているから、濃い線もよく消えるんだよね。
【高畑】普通に消える。
【他故】全然遜色ないよ。
【高畑】何か、もっとジャリッとしそうな感じじゃん。
【きだて】鉄粉入りとか聞くとさ、不安があったんだけど。
【他故】まるっきり普通だよ。
【きだて】消しゴムとしての機能が高いうえに、消しカスを磁石で集められるのが楽しいという。
【高畑】そう。
【きだて】これはイロモノなのかどうなのか。基本性能が高すぎて、イロモノと呼びづらいレベルなんだよ。
【高畑】なるほどね。
【きだて】消しカスが集められるのも便利じゃん。
【他故】そうだよね。
【高畑】紙スリーブでありながら、マグネットにくっついた消しカスを捨てられるようにフタが開くというギミック(下写真参照)がね、ちょっと小憎らしいところじゃないですか。うまいことできてるっていう。
【きだて】小丁寧に作りやがってという(笑)。
【他故】いや、本当にね。
【高畑】僕は、クツワが1970年代ぐらいに作ったそうじ機型の磁石消しゴムを持っているんですよ。
【きだて】あったね。
【高畑】あのときはジャリジャリだったの。しかも、そうじ機の中に入っている消しゴム取り出して使うというのがちょっと面倒だったし。マグネットもゴム磁石みたいで、いまいち強くなかったけど、今回のはネオジム磁石を使っているし、性能的には当時の布フィルターのそうじ機からダイソンのクリーナーになった感じ。
【きだて】そうなんだよね、ネオジ使ってるんだよね。
【他故】すごいよね。
【高畑】これ、小学生なら、使った後に磁石取り出すよね。
【きだて】いちおう、簡単には取り出せないようになってるんだけどね。
【高畑】フタを開けるところに「取り出さないで」と書いてあるんだけど、終わったら全部ビリビリって破いて取り出して、それで砂場で遊ぶというものではあるけど。
【きだて】うん。
【高畑】ネオジ使っているというのもあって、値段も280円(税抜)するけど、逆に280円で遊べてしまうともいえるし。
【きだて】「遊べてしまう」と言っているところにややこしさがあるけど。
【高畑】遊んでしまっているじゃないですか。なのに、ちゃんと機能性を謳っているかのごとく振る舞うのはね。
――振る舞うって(笑)。
【高畑】便利の延長にあるように見せかけているじゃないですか。まるで便利なもののようなフリをしている感があって。
【きだて】あっ、そう。俺の解釈は文具王と逆なんだよ。遊んでいるような体で、意外とちゃんと便利じゃんっていう。
【高畑】ちゃんと便利なんだけど。
【きだて】文具王と見方のスタンスが逆だったわ。
【他故】なるほど、そういうことね。
【高畑】イロブン評論家のきだてさんから見たら、「自分たちのカテゴリーじゃないぞ」っていうことだね。
【きだて】イロブンかと思ったら、ちゃんと実用品じゃん?っていう。対して文具王は、実用品のくせにイロブンみがあるという。
【高畑】そうそう。だからコウモリなんだよ。俺から見ると、普通の文房具のフリをしているけど、「お前にはダマされないぞ」っていう感じがちょっとあるし(笑)。
【他故】あははは(笑)。
【きだて】俺としては、「何だよ、こっち側かと思ったら、真面目じゃねえか」っていう(笑)。
【他故】わははは(笑)。
【高畑】そこだよ。
【他故】面白いな~。
【高畑】これは、学校へ持っていっても、先生がギリギリアウトにしづらいでしょ。
【他故】アウトにしづらいよね。
【高畑】これは、「単に便利なもの」と言われれば、そうだからね。
【他故】問題なく消せるしな。
【きだて】実際、リビング学習が本当に増えているみたいで、消しカス問題ってどうしてもあるじゃない。子どもって、リビングの絨毯の上にも平気で消しカス落とすでしょ。
【高畑】あれって嫌なんだってね。
【きだて】そりゃそうだよ。掃除機で吸ってもなかなか取れにくいしさ。
――うちも、食卓に消しカスが残ってますよ。だから、コレ使ったらいいのにって思いますよ。
【きだて】そう。これだと楽しいから集めちゃうんだよ。
【他故】消しカスを集めるのがね。
【きだて】子どもに片付けをするモチベーションを与えるというのは大事だよ。片付け作業が楽しければ、子どももちゃんとするでしょ。
【他故】はいはい。
【きだて】そういう意味で、うまいことやったなという感じがするのね。
――1個280円もしますけどね。
【きだて】高いのは高いよね。このサイズの消しゴムにしては。
【他故】大分高いよ。
――でも、実用品としてギリギリこの価格に抑えたんですかね。
【きだて】「これなら消しカスがきれいに片付きます」って言うと、親も欲しくなって買っちゃう可能性があるんだよね。
――そうそう。
【他故】子どもは磁石だけど、親は「消しカスが散らばらずに捨てられるのね」というところに目が行くよ。
【きだて】だから、ウィンウィンでお金が出てくる。
【他故】「高いから大事に使ってね」と言いながら買っちゃうんだ。
【きだて】そういう意味でも、うまくやったなと思う。300円以下というのがまた絶妙で、「これならしょうがないか」で親が出せる金額だよ。
【高畑】これはね、その値段は超えたくなかったのはよく分かる。
【他故】280円っていう割り方がいいよね。
【高畑】だって、子どもにしたって、そこを超えると高級品になっちゃうもの。
【きだて】いや、消しゴムとしては、200円を超えた時点でかなり高級品だけどね。
【高畑】それはそうだけど、300円の壁はかなり大きいよ。
【きだて】うん、でかいね。300円って、文房具の壁として一つあるじゃない。
【他故】特に、鉛筆を使っているような児童に、280円の消しゴムはなかなか。自分で買いに行くという範疇じゃなくなっちゃうからね。
【きだて】だから、親が買ってやる。
【他故】そうだね。親が同意の上で「これはいいね」と言って買ってあげるタイプ。
――実際に売れているんですよね。
【高畑】人気はあるみたいですね。あと、ネタ的に面白いから、口コミ力もあるし。ネットでもバズるし、普通に友達が持っていても口コミで広がるよね。
【他故】学校前の文房具屋だったら、人気になるんじゃないですかね。
【高畑】この前の「ハンドスピナー消しゴム」に比べたら随分とね。
(一同爆笑)
【きだて】「ハンドスピナー消しゴム」は、俺が自信を持って「イロブンです」と言えるわけじゃない。
【高畑】安心して言えるところだし、お母さんからしてみれば、「そんなものを」って言えるんだけど、これは「おっすごい」ってなっちゃうし。
【きだて】最初に買ったとき、3個レジに出して500円玉ひとつ渡そうとしたら、あれ?って。普通の消しゴムの感覚だとこれでおつりくるじゃない。
――値段を知らずに買ったんですね。
【きだて】そう、値段気にせずに買っちゃって。
【他故】外見上は150円くらいですよね。
――でも、消しゴムなので、最終的にはなくなるという話じゃないですか。それを300円近い価格で買うわけですよ。なかなか勇気がいると思うけど、それでも売れているというのはすごいですよ。
【他故】そうですよね。
【高畑】そこの油断はあると思うんだよ。「そんなに大した金額じゃない」と思って、ポイッてカゴに入れちゃって。だからダメということはなくて、よくできているから、「まあいいか」ってなる。
【きだて】これでね、消能力が悪いならば、素直に「イロモノ!」って言えるのにさ(笑)。
【他故】ちゃんと消えるからね。
【きだて】今どきの消しゴムは、よく消えるね。
【他故】本当に。
【高畑】それはあるね。イワコーの面白消しゴムもそうだけど、昔は「そんなおもちゃみたいなやつは、消せないから使い物にならない」と言われてたけど、今の消しゴムは使えるからね。
【きだて】それで、スリーブのところに消しカスを持っていくと、スイスイとくっつくじゃない。それが気持ちよくてさ。
【高畑】磁力が強いからくっつんだよね。それこそ、昔そうじ機のかたちをしていたときは、本当におもちゃだったんだけど。ちゃんと作れば、ちゃんとした製品になる。
【きだて】意外な面白さだよ。
【他故】今、息子に持たせて学校で使わせているんだけど、もしかしたら流行ってるのかな? 今度聞いてみよう。
【きだて】デザイン的に、中学生が使うには、ちょいガキめじゃん。
【他故】この感じは、小学校高学年くらいかなと思うんだけど。僕の記憶だと、昔の「BOXY」みたいなイメージがあって。棒状の四角くて黒い消しゴムがあったじゃない。
【きだて】あったね。
【他故】そういうところが懐かしくて、小学校高学年生が好きそうな感じはするんだけどね。
【きだて】この「Zi」って書いてあるところも、小学生男子の心をくすぐるじゃない。元素記号っぽくて。
【高畑】元素記号っぽいけど「Zi」という記号がない。
【きだて】ジリオニウム使ってるんだよ。「赤い光弾ジリオン」だよ。
――「磁ケシ」のZiでしょ?
【きだて】そうなんだけど(笑)。
【他故】何でも架空なものの方向に持っていくという(笑)。
「Zi」の記号で磁石を表現
【高畑】でも、値段とかの兼ね合いも含めてさ、このケースの割り切り方はいいよね。うまいことやったよね。もっとしっかりしたものを作ろうと考えると、300円を超えちゃうだろうから。
【他故】ああ、そうだろうね。
【きだて】紙のこれでいいんだという。
――どんな磁石が入ってるですかね?
【高畑】小さな四角い長方形のネオジが入ってるよ。マグネットとして、ホワイトボードに付けるのには、すごい強い磁石だよ。
【きだて】それ単体で付けるとつまめないので、ホワイトボードから離せないやつだよ。
【高畑】工作の材料にも使えるけどね。「ピップエレキバン」なんかからはがした磁石は、僕らの工作材料だったから。この磁石は、ダンボールにくっつけて何かしらができるやつだから。
【きだて】そうだね。
【他故】ただ、ネオジの小さい磁石は、誤飲の問題があるから、実際のところメーカーとしては取り出してほしくないんだよ。
【高畑】もちろん、バラしちゃいけないので、「絶対にケースを壊すな」と書いてあると思うけど。
――「絶対に外さないで下さい」と書いてありますね。
【高畑】確か、磁石を飲み込むとまずいんだよ。胃や腸の壁ごしに他のとくっついてしまって、穴をあけたりするらしい。
――そこは気をつけないといけないですね。
【高畑】でもまあ、普通の文具にしては面白過ぎるし、イロモノ文具にしては真面目過ぎるし。
【他故】普通におすすめできちゃうものな。
【高畑】だから、充分に発達したイロモノ文具は、普通の文具と見分けが付かない。
【きだて】それだよ(笑)。
【他故】まさに(笑)。
【きだて】今のクツワは色々と突き詰めているなという感じがして面白いよね。メーカーとして、結構好きだな。(明日は「ブレン」を取り上げます)
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書として『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)と、古川耕さんとの共著『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。
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