【連載】月刊ブング・ジャム Vol.01前編
筆記具戦線に異状アリ!?
(左から他故さん、高畑編集長、きだてさん)
本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」。文具ファンにはおなじみのこの3人が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」がスタート! 第1回目ではまず、激戦の続く筆記具について激辛トークを繰り広げました。
やっぱり“フレフレ機構”は外せない(モーグルエアー)
モーグルエアー(パイロットコーポレーション、税抜500円) ペン先が"モグる"ことでシャープ芯が折れることを防ぎ、強い筆圧による衝撃を吸収する新開発の「アクティブサスペンション」機構を搭載した、“折れない”シャープペンシル。本体を振るだけで簡単に芯を送り出すことができるパイロット独自の「フレフレ」機構も採用。
――「モーグルエアー」は結構売れているようですね。
きだて ちょっとブヨブヨし過ぎじゃないかな。
他故 ああ、芯の沈み込みがね。
きだて 個人的に合わないかなー。他故さんは割と気に入ってたよね?
他故 筆圧が高くなくなったので、どのシャープも大体折れないから。折れる折れないは関係なく、クッションは欲しいと思っているの。昔のシャープペンシルって、クッション付いてるのあったじゃない。ちょっと沈むぐらいのやつ。強い筆圧では沈むという感覚だったので、モーグルエアーを使っていて問題ない。
きだて モーグルエアーを使っていると、必要以上に沈み込ませないように逆に力を入れる感じがあって。
他故 気にしたことないな~。まあ、それにプラスして“フレフレ機構”が好きなので(笑)。
高畑 俺もそんなに筆圧高くないので、そんなに気にしないけど…。まあ、ここに来て折れないシャープが揃ってきたじゃないですか。「デルガード」が強烈に強いやつを作っちゃったから、その中で満を持してパイロットが出てくるとしたら、それに対して「何かしら欲しいよね」というところで付けたのがフレフレ機構なんだよ。
他故 「違う方向性を」となったときに、「武器はまだあるぜ」っていうのだよね。
高畑 パイロット的には、フレフレ機構を持っているのが強いよね。
きだて フレフレはいいんだよ、武器として。でも、このサスペンションのチューニングはどうなんだろう?
高畑 でも、強くしたら折れちゃうんじゃない? デルガードのななめ機構が入っていないから、その分沈ませてあげないと。
きだて そうなんだけどさ。
高畑 うーん、好みだろうね。見た目的な部分も含めて。
他故 ここ(ボディ側面の細長い小窓)でフレフレメカが見えるっていうんだけど、ほとんど振れ幅が見えない(笑)。
きだて 高速で通過するから(笑)。見ようとするとすでに通過してるからね。
高畑 新幹線みたいにね、高速でビュンと(笑)。これ賛否あるんだけど、クルトガもデルガードも先端は透明じゃん。「ここが見えなくてもいいですよ」という人もいるかもしれないけど、機能があるところを中身が見えるように透明にするのは、これ見えなくしたら全く分かんなくなってしまうでしょ。だから、これ必要なんだよね。
他故 このジャンルがガンガン売れて、段々と隠れたデザインになっていくならいいさ。
高畑 そこなんだよね。だから、まだ過渡期なんだよ。
きだて 逆に、全身クリアなのは出ないのかっていう話だよ。
高畑 ミクロマンみたいなやつ?
――非売品のデモンストレーション用のはありそうですよね。
きだて 強度的にいろいろと問題はあるでしょうけど。
他故 いや、できなくはないでしょ。ただ、全身クリアと言ったって、後ろには何の特徴もないぜっていう話になっちゃうだろうけど。
きだて それはそうなんだけど。
高畑 全体的なバランスを取るのも、デザイナーの腕の見せ所だし。やはり、ここで新しく出てくるにあたり、フレフレ機構は外せない。フレフレを入れることで、それぞれの立ち位置の違いというか、得意技の違いが出た。各社大分揃ってきたなという感じはあるよね。
他故 一通り揃った感じはあるよね。
きだて 折れないシャープペンどれ選ぶ?っていう選択肢が増えたことは、すごいいいことでさ。
高畑 この違いはさ、お母さんから見れば「どれでもいいでしょ」ということになる(笑)。
きだて 「折れないんでしょ、もういいでしょ」って(笑)。
高畑 でも、これはお父さんでいうところの「トヨタのハイブリッドにするか、日産の電気自動車にするか、マツダのクリーンディーゼルにするか」というところの違いみたいな話があるじゃないですか。「いや、ぜんぜん走りが違うんだよ」って(笑)。
きだて あと学校でさ、クルトガ閥とかデルガード閥とか、そういう派閥はないのかね?
他故 派閥ね。どうなんだろう? 好きなもの使っているだけだったらそんなことないと思うし。例えば、一人だけ違うのを使っていたら「何だお前」みたいになるのかな?
きだて そういう同調圧が俺らのときにはあったような記憶があるんだけど。気がついたら、クラスの大半の男子が「2020 ROCKY」(編集部注:パイロットから発売されていたフレフレ機構のシャープペンシル)を使っていたことがあってさ(笑)。
他故 え~(笑)。
高畑 人気で広がるというのはあるかもしれないけど。逆に「何であたしと同じ色のデルガード使ってるのよ」みたいなのもあるかも。服がかぶったら怒られるみたいな。
他故 そういう世界は確かにね。
高畑 これだけ商品が厚いのは、うらやましいけどね。「俺が高校の時には何でなかったの」ってすごい思う(笑)。俺が中学や高校の時にこれだったら、すごく加熱したと思う。
他故 それは分かる。
きだて この間、新宿のハンズで、「オレンズネロ」の0.2㎜がないって悔しがっている中学生くらいの男子がいたからね。
高畑 その気持ち分かる。
きだて 彼らは3,000円出すんだっていうのが分かって、心強いものを見た気がしたんだけど。
高畑 まあ、ここでパイロットが出してきたんだけど、後発なので試行錯誤的な段階は通り越しているから、まとまってる感はあるなと思いましたね。
他故 このデザインも、黒だと男子という感じになっているけど、ここにパステルがちょっとかかっただけで女の子が持てるようになっているからね。
きだて デザイン的には、意外とファニーな感じになっているよ。
他故 この辺は「面白いな」と出たときに思った。写真で見たときはただ真っ直ぐなペンに見えたんだけどね。でも、持ってみるとそうでもないんで。こんな微妙なラインでよくそこまで出せるなと思ったんだけど。デザインが変わらないけど、色だけで女の子にもちゃんとウケるものが出せるんだね。
いざという時に使える安心感(デルガードタイプER)
デルガードタイプER(ゼブラ、税抜700円) 人気の芯が折れないシャープペンシル「デルガード」に、逆さにするだけで消しゴムが使える、キャップレスタイプの消しゴム機能を搭載。
高畑 まあ、こういう新しいところが出てきて、先行派としては逃げないといけないので、新たな機能を足してくるんだよね。で、ゼブラに関してはデルガードに「タイプER」を出して、イレーサーが付いてきたという。これは、消しゴムが出てきて固定するという機構を付けて、先端部分ではなく後ろで勝負するという。デルガードのシステムが、ある意味では完成度が高いというか、もういじりにくいからね。
きだて 折れない機能に関しては、ほぼほぼ心配ないレベルじゃない。
高畑 よく出来ているから、そこに関して明らかにステップアップしていくのは難しいからね。そこで、新たな機能として、書くだけじゃなくて消す作業も一瞬でできるという。
他故 まだちょっと早いかなという気はしたんだけどね。もっと普通のデルガードでも勝負できたんじゃないかなと、逆に思うんだけどね。そうじゃないのかな。新しいものを次々と出していって、デルガードという名前を固めたいという気持ちがあるのかな。
高畑 450円、1,000円を出してきて、その中間が欲しかったんだろうね。
他故 間を埋めるものがね。
きだて シェア的には、まだクルトガ一強なの?
高畑 いや、どうでしょう。デルガードも相当強いでしょう。
他故 デルガードも相当来ているんじゃないかしら。
きだて となれば、このERを出したのは、それなりに意味はあると思うんだよね。
他故 認知的な部分も含めて?
高畑 メタルグリップの「タイプLx」は、廉価版に対して高級版じゃないですか。それ以外に新しいものを作るということなんで、その中間モデルを作ってもあまり意味がないから、そこはやっぱり機能なんだろうな。
きだて 純粋にこの機能って、男子中学生が見たら「すげぇ」って言うじゃん。「欲しい」ってなるじゃん。だから、それで正解だと思うよ。
他故 でも、これって中高生向けに作った機能なんだろうか?
――授業中に、キャップがなくてすぐに消せるから便利じゃないですかね?
他故 授業では普通の消しゴム使うから、むしろ緊急性があるものなのかなと思うんだけど。
高畑 そこのリアリティをすごく考えると、普通に消しゴムを持てよという話になるんだけど、これが言いたかったのは、「ペンを置いて、消しゴムで消して、もう一回ペンを取る、というこの時間すら惜しいでしょ」ということなので、テスト用かな。
他故 むしろ、相手はクルトガじゃなくてフリクションなんじゃないかな。
――あー、なるほど。アクション的にはそうですね。
きだて まあ、中高生はフリクションを授業で使うことはないじゃん。
他故 ないかな。
高畑 どちらかというと、そうだね。シャープペンとボールペンの区別は割とはっきりしている感じなので。パイロットがフレフレを入れてきたように、自分たちが入れられて、他社に真似のできない技術で、かつこのペンに付けたときに便利なものを考えたときに、そんなにいくらでも選択肢があるわけじゃないからね。
きだて 付いているものを便利にするという話になれば、当然消しゴムというのはね。
高畑 割とストレートじゃん。鉛筆があって消しゴムがあるというのはね。それで、この消しゴムのところを、あえて操出式というよくあるものにはしなかった。デルガード自体が持っている特殊性みたいなものもあるし。
他故 確かに、これを見たらこの消しゴム使ってみたいもんな。
高畑 ただ、消しゴムの容量がそんなに大きくないから、買うと予備が付いてくるんだよね。ここら辺も悩ましいところではあるんだけど。
きだて リアルな話をすれば、この機能一回使えば満足するじゃん(笑)。
高畑 たくさん使うときは、もちろん消しゴムを使えばいいけど、テストの時であったりとか、一瞬ちょっとひと文字、ふた文字という時だったりとか。
きだて ゼブラの開発者の方は、いざテストとか受験とか、そういう一秒たりとも集中を切らせない!って時に使って欲しいと何度も言ってたね。
他故 使える消しゴムがちゃんと付いているという。
きだて 「これで安心感が得られるでしょ」って。いざという時に使える消しゴムが付いているだけで心強いから。だから、その辺はファンタジーでいいんだよ。やりたいこと“全部盛り”のシャープだ!(ぺんてる)
オレンズネロ(ぺんてる、税抜3,000円) 0.2㎜、0.3㎜の極細芯でも折れないシャープペンシル「オレンズ」の究極のフラッグシップモデルとして登場。極細芯でも折れない機構に加え、ノック1回で芯が出続ける「自動芯出し機構」を搭載した(芯径0.2㎜としては世界初)。
高畑 ぺんてるに関して言えば、「オレンズ」のシリーズでは0.2㎜と0.3㎜しかやらない。しかも、オレンズはソフトグリップもやったし、メタルグリップもやったし、結構ラインアップあるんだよね。その中で、新たなプラスオンとしては、ぺんてるが昔持っていた自動芯出し機構を入れてきた。それもすごいんだけど、それ以外にもやりたいことを全部盛った感があるのが、これのちょっと面白いところではあるよね。3,000円まで思い切って価格を上げたというところもあるし。このボディの重量バランスの気持ちよさがね。ナイロン樹脂に鉄粉を混ぜていて、前部と後部でその含有量が違うから、重さが変わってくるんだよね。
――きだてさんはネロの方が握りやすいんでしょ?
きだて この握り具合はすごく好き。指に「しとっ」て乗る感じがあるので。
高畑 指に残る方向に重さが有ってくれているので、どんな手の動きにもくっついてくれている感じがあって、すごい楽なのよ。
他故 そう言われてみると、「あっ」て落とすことがないんだよね。
高畑 真鍮ほど重くない重量があるというのが、結構面白くて。今までの他のものと比べると、樹脂製でもないしメタルでもない新しい重さ感というか。
他故 モデルガンとかエアーソフトガンを趣味でやってる人には、この肌触りがすごく良く分かるよ。プラスチックの表面にヘビーウェイトを使っているから。金属じゃないのに金属的な重さがあって。
高畑 ナイロンだからすごいエッジをたてるのは苦手なんだよね。
きだて 12角柱と言いつつちょっと甘くなっている(笑)。
高畑 これはキンキンに尖らせる材料じゃないので。
きだて その代わり、グリップにソリッドな刻みが入っているだけで、生地の角の感じは出てくるのよ。デザイン的には。これはとても良いデザインだと俺は思うよ。
高畑 デザイン的にもすごく良いと思うし。あと、折れない系の中では、オレンズが唯一先端が細く作れるシャープペンなんだよね。他のものは、先端近くにメカがあるので、どうしても急激に太くなるじゃない。だから、角度が鈍角になっちゃうんだけど、オレンズは鋭角になっているので、ペン先周辺がすごく見通しが良いの。
他故 細かく書くんだったら、こういうかたちじゃないと見えないからね。
高畑 ただ、その代わり、デルガードほど筆圧をかけていいかというと、そこは加減してやれよという気もするし。
きだて ただ使う方も、0.2、0.3を使っているという意識はあると思うので、そこまで無茶はしないと思う。
高畑 あと、パイプスライドがあるので、書き手によって好みはあると思うんだけど、パイプが当たるので、ある程度立てた状態で書く。それで筆圧を強めにするときれいに書けるんだけど、そこら辺のクセみたいのがオレンズには多少あるので。ただ、それにしたって、3,000円のハイグレードモデルとしてのあり方としては全然ありだと思う。
きだて 3,000円出して買う人は、すでに文具リテラシーがあるんだよ。
高畑 そうだよね。だから雑に扱わなくていいでしょとなる。
きだて 3,000円という価格が良い面に出ているという感じがするよ。
高畑 ぺんてるの人は、「オレンズの最高モデルを作ったのではない、シャープペンシルの最高モデルを作った」と言っているんだけど、そこまで自社の技術を詰め込んでも3,000円にしてくるところが日本の文房具だなと思うし、とはいえ中高生には高すぎるという人はいるけど、全然買うんだよ今の子たちは。
他故 買うね。3,000円は買うと思うよ。
――これめちゃくちゃ売れてますよね。
きだて 売れてる。
――売り切れになっている店が結構ありますからね。
きだて あと、個人的に折れない系の半透明のデザインが嫌いじゃないんだけど、たまに「なんか飽きたなー」って引っかかるときがある。そんな中で、デザイン的には使いやすいチョイスではあるんだよ。
――オレンズはスケルトンを一切やってないですからね。
高畑 あと、他の色もない。鉄入りの、しかもナイロンを使っているから、黒以外に塗装がのらないんだよね。
他故 「ネロ」という名前を付けたからには、このモデルは黒ということだよ。
きだて 本当に、折れないシャープペンって、てかてかするか半透明か、蛍光色しかないじゃん。渋い色がないじゃん。
高畑 元々オレンズは、中に入っている機構がパイプスライドみたいなシンプルな機構なので、見せてもしょうがないのもあるし。あとぺんてるのすごいのは、何と言っても0.2㎜の芯を作れるところなんで。
他故 そこが違うよ。
――0.2㎜はぺんてるしかやってないですか?
高畑 やってないね。でもこれ、他社が0.2㎜芯が入るシャープを開発して、「芯はぺんてるのを入れて下さい」というのはアリなのかな(笑)。
他故 いや~、言えないと思うんだけどなぁ。
高畑 技術的には、0.1㎜の芯を作って、それを入れるシャープも作りましたと言ってたから。0.2㎜芯を作れるというのは、世界で初めて樹脂芯を作ったぺんてるの意地みたいなものがあるよね。
「クルトガ」よりも倍速!(アドバンス)
アドバンス(三菱鉛筆、税抜550円) 大ヒットシャープペンシル「クルトガ」(スタンダードモデル)に搭載している自動芯回転機構“クルトガエンジン”よりも2倍速く回る“Wスピードエンジン”を搭載。より長時間書き続けても文字の濃さも太さもずっと同じように書き続けられる。筆記時の芯折れを防ぐスライドパイプ機構も採用。
高畑 フレフレを足したパイロット、消しゴムを足したゼブラ、自動芯出しを足したぺんてるがあって、そして倍速で回る三菱が今度来るよということで。「アドバンス」はまだ触ってないからね。(*編集部注:この鼎談はアドバンスの発売前に行われました)
――「クルトガ」ではなくて「アドバンス」なんですよね。
他故 クルトガが付かないんですよね。
高畑 ロゴの上に小さく「クルトガ」って入っている。でも、アドバンスは別ブランドのかたちで、あえてクルトガとは言わないんだよ。クルトガの中に入れずに、普通に「三菱鉛筆で出しているシャープペンの中でいいもの」という立ち位置に持って行きたいのかなという感じがするんだけど。
――棲み分けができるんですかね。
高畑 それをしようとしていると思うんだけど、なかなか難しい。2倍速で100円差だったら、アドバンスばかりにならないように別物として。だから本当はセグメントを分けたいんだよね。
きだて たださ、2倍速で回るものを「欲しい」「欲しくない」のセグメントって何の意味があるんだってことになるじゃない。
高畑 だから、これからシャープペンを買う人たちには、「キレイな字が書けるシャープですよ」と言いたいんだよ。次世代のペンとしてこれだよと。
きだて 新規開拓用にということか。
高畑 「今あるやつと新しいやつどっちがいいですか」と言った時に、「じゃあ、新しいやつ下さい」と全部がなってしまうのではなくて、その両方をそれなりに存続させていく理由みたいな部分は要るんだろうなと思う。三菱が目指しているのはそっちだよということなんじゃないかな。
もはや消せるのは特別なことではない!!(ユニボール アールイー)
ユニボール アールイー(三菱鉛筆、税抜180円~230円、*写真は税抜180円のスタンダードタイプ) 新開発の「熱消去性インク」を搭載したノック式消せるボールペン。筆記時は一般的なノック式ボールペンと同様にペン先を下に向けるとスムーズにノックできるが、消去する際は軸を逆さにするだけで新開発の「ロック機構」が作動し消し具を固定するのでしっかりと消すことができる。
高畑 そこで考えると、「アールイー」は逆の発想なんだよね。「ユニボール」の傘下に入れたんだよね。パイロットでいうところの「フリクション」は、フリクションという独立した枠があるんだけど、こっちは「アールイー」という新しい枠ではなくて、「ユニボール アールイー」にしたのは、「うちにあるボールペンの1個なんです」という立ち位置なんですよね。この外に柱としてポンと出すのではなくて、「三菱が持っている普通のボールペンの中の1個だよ」と言いたい。
きだて それはよく分かるよ。でも、このキャップは要らないよ(笑)。
高畑 キャップがない方が消しやすいというのは、すごく良く分かるんだけど、なくても使えるよ。きだてさんそのキャップ外してたら?
きだて 外してるよ。ただね、消し具にインクカスが付いているときがあって、指に移るのよ。そういうためのキャップだというのは分かる。
高畑 フリクションを使っていて、「ラバーが汚れるから嫌だ」という人もいるんだよね。多分、同じにしないというのは、自分たちの技術でというところがあって、だからサイドノックにしていないし、ラバーを後ろに付けているのも「そんなに消さないだろう」と。
他故 うん、どっちかというとそれだよね。
高畑 消すということがフォーカスされているフリクションに対して、アールイーは消したければ消すこともできるけどもということで、今までシャープペンの後ろに付いていた消しゴムの立ち位置なんだよ。だから、「あっ間違えた」という緊急時に出せばいいけど、常に露出してなけらばならないほど間違えるなよという話もあるし。「普通のボールペンで今まで使えてたでしょ」というのはあるんだよね。
きだて じゃあ、消せるの出さなくてもいいじゃん(笑)。
高畑 それでも消したいときはあるじゃん(笑)。消せるボールペンっていうのが、今まで一強だった訳じゃないですか。
きだて オンリーワンだったからね。
高畑 ようやく闘うライバルが出てきたところではあるので。こういうのが出てくると、お互いに意識するから。シャープペンが今面白くなっているのは、ライバルが強いからじゃん。ライバルたちに対して、自分たちの必殺技を絶対に繰り出さないと勝てないという状況だからこうなってきているんで。多分ね、これから消せるボールペンが面白くなるんじゃないの。
きだて 実際に三菱も、これ単品で済ますつもりはないよね。
他故 いや、それはそうでしょう。やりたいでしょう。
高畑 これ、言ったら何だけど、見た目も普通じゃん。最初にフリクション出た時は、あきらかに不思議なかたちだったんだよ。
他故 異質な商品だったからね。
高畑 そうじゃない、普通のボールペンだよということで、ストレートなボディに柄もそんなに入れていないし、当初からちょっとハイグレードなモデルとキャラクターモデルを出してきている訳じゃん。これって、他の筆記具を出す時と同じだよとということなんだよね。「消せるというだけで、かわいくないのは嫌でしょ」ということなんだよね。
他故 そうね。
高畑 だから、「もはや消せるのは特別ではないよ」という宣言なんだろうなと思う。この、ラバーを逆さにすると固定される機構は面白いじゃないですか。これ、デルガードとはまた違う機構なんだよね。回転子で止めるんだよね。消しゴムを止める回転子はここにでかく入っているから余裕なんだけど、今度はノックの回転子が入らなくなっちゃうから、ノックの回転子を一つ内側に入れてあって、メッチャ小さい回転子が入っている。
きだて あっ、なるほど。
高畑 ノックパーツの内側に、めっちゃ小さい回転子が入っていて、普通のノック式じゃないんだよね。これをバラしてみると、クルトガと似たオレンジ色のパーツが出てくるんだよ。そうか、歯車を回させたら彼らはプロだったんだ!
(一同爆笑)
高畑 こういう小さい歯車を回してカチッと止めるのは、得意技だったんだというのがあるんですよ。
きだて そうだな。
高畑 この機構も、「ノック型にしました」と簡単に言っているけど、これそう簡単に真似できないんだよ。
他故 できないだろう、これは。
高畑 そういう中の機構なんかを見るとね、三菱の技術力というのはね…。
きだて あのね…、伝わりづらい(笑)!
高畑 ……いいです、そのことは僕がまた別のコーナーで記事に書くから。いや、でもまぁ、ここがまた新たな戦場となるというか。
きだて それは間違いないだろうね。
他故 フリクションも今年で10周年だしね。
きだて どちらもこのままで済ますつもりがない気がするので。
他故 久々の全面戦争か?
きだて 折れないシャープペン戦争から消せるボールペン戦争に移行するね。
高畑 もちろん、それぞれにユーザーがいるから平行はするんだろうけど。でもいいじゃん、こんなに面白いものがバンバン出てくる時代にいるというのが面白いね。
(後編:貼るもの・切るもの編は近日公開)
プロフィール
きだて たく
小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/
他故 壁氏(たこ かべうじ)
文房具トークユニット〈ブング・ジャム〉のツッコミ担当。文房具マニアではあるが蒐集家ではないので、博物館を作るほどの文房具は持ち合わせていない。好きなジャンルは筆記具全般、5×3カードとA5サイズノート。二児の父親。使わない文房具を子供たちに譲るのが得意。
たこぶろぐhttp://powertac.blog.shinobi.jp/
*このほか、ブング・ジャム名義による著書に『筆箱採集帳 増補・新装版』(廣済堂出版)があるほか、弊社よりKindle版電子書籍『ブング・ジャムの文具放談』シリーズを好評発売中。購入はこちらから。
【文具のとびら】が気に入ったらいいね!しよう